■コンビニ

思考を単純化する装置−−新しい生活インフラ

三浦 展

 すでにコンビニという略称が完全に定着したコンビニエンスストアは、アメリカで生まれた小売業である。セブンイレブンは、ダラスで氷屋を経営していたジョン・ジェファーソンが始めた。彼は1927年、夏場以外に牛乳・パン・卵などを売り始め、この店をテキサス州内でチェーン化、39年には60店舗、50年には500店舗、60年代には3500店舗に増えた。
(1)サークルKは1951年に創業しているから、アメリカでもコンビニが発展したのは、自動車社会が大衆化し、郊外にまで広く道路網が整備された1950年代以降のことであるといえる。
 日本では、1974年にイトーヨーカ堂がセブンイレブンと提携し、東京・豊洲に一号店を開店したのがひとつのエポックである。以後、西友のファミリーマート、ダイエーのローソン、ジャスコのミニストップなどが次々と参入した。業界誌の統計では、1973年に500店だったコンビニ数が84年には25500店に、そして97年には50121店にまで増加した。つまり老若男女合わせて国民約2500人に1店の割合でコンビニがある計算になる。

 コンビニの増加によって、古くからあった商店がかなり打撃を受けたことは間違いない。もともとスーパーなど大型店の出店によって零細な商店の売上げは減少したところが多いが、スーパーには客を集める効果 もあるので既存商店との共存共栄も可能である。しかしコンビニの場合、1店あれば、食料品店も雑貨屋も酒屋も米屋も不要になるのだから、そうした両者の両立は困難である。
 かくしてコンビニは、人々の生活スタイルを変えた。典型的なのは中食(なかしょく)という現象だ。中食とは家庭の中での内食と、家庭の外での外食の中間。つまり、外で買った物を家で食べることをいう。コンビニの弁当が中食の代表的商品だ。セブンイレブンが1988年に弁当類の配送を一日3回体制にしたことが、弁当の品質を向上させ、中食市場を拡大したといわれている。(2)
 食生活全体に占める中食の比重は、「家計調査」における食料費のうち「調理済み食品」への支出が何%であるかで概ね把握できる。茂木信太郎によれば、1964年には2.9%だったが、94年には8.5%である。これは一般 の家庭であるが、
30歳未満男性の単身者では12.5%である。(3)
 さてしかし、コンビニの現代的な意味は食生活への影響だけにとどまらなくなっている。その集客力に注目した他の業界は、単にコンビニに商品を置くだけでなく、コンビニ向けに商品を開発するようになった。また、宅配便の受付、イベントチケットの予約、公共料金の払い込み、インターネットによる注文商品の受け取り、銀行預金の引き出し等々、コンビニでは、あらゆる物が売られ、あらゆるサービスが受けられるようになりつつある。コンビニが消費行動を変化させつつあるとも言える。
 たとえば今、コンビニにはテレビゲームのソフトやCDも売っている。実際そこで買う人は少ないだろうが、若い人なら毎日1度はコンビニに行くが、さすがに毎日ゲームソフト店やCDショップに行く人はいないから、コンビニに置いておけば消費者への露出が大きい。新作が出たことを認知させるには最適の場なのである。そこで生まれるのがメガヒット現象=特定の商品が短期集中で大量 に売れるという現象である。メガヒットはコンビニなしにはありえないであろう。
 コンビニはPOSシステムにより徹底した在庫管理を行う。そのため少しでも回転が鈍った商品は即座に棚からなくなり、新しい商品に替えられる。新商品は広告を大量 に投入するから当然認知度が高く、売上げを稼げる。その新商品の中からロングセラーが生まれればメーカーとしてはしめたもの。しかしなかなかそうはいかないから、次々と新製品を投入することになり、最初は広告効果 で売れても、あまり固定客の着かなかった商品はまたしても棚からはずされる。そういう非常に速いサイクルで商品が次から次へと入れ替わっていく。これがコンビニの仕組みだ。
 そうなると当然、特定の人だけが深く支持しているような商品はコンビニでは短命に終わらざるを得ない。あくまで量 が勝負である。できるだけ多くの人が高い頻度で買う商品が生き残る。どうしても、個性的なものは残らない。したがって同調性の高い消費が主流になる。だから、コンビニを中心に育った世代は同調性の高い消費をするはずだ。いやでもそうなるのだ。自分がいかにこだわりを持って好きだと思う商品でも、コンビニの徹底したPOSシステムの前では、売上げが少しでも鈍れば棚から消えるのである。その意味でコンビニは、商店主が自分の好みの商品を置き、それを支持する顧客との信頼関係の中で商売を成立させるような人格的な性格は全くない。むしろ反対に、徹底した品質管理を行い不良品をはじく工場生産ラインに近い。一見便利なコンビニであるが、商品だけでなく、人間の思考と嗜好を知らず知らずのうちに単純化させてしまう危険がある。

●注
(1)山田政美編著『英和商品名辞典』研究社、1990
(2)茂木信太郎『現代の外食産業』日経文庫、1997
(3)同『外食産業テキストブック』日経BP出版センター、1996