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■美容室
カリスマ美容師なる言葉が2、3年前に流行し、高校生の間で美容師が人気職業ナンバーワンになっていることはよく知られている。だが、最近は、美容師という職業だけでなく、美容室という店そのものも、相当注目に値する空間になってきている。
原宿あたりを歩くと、昔ながらのシルバーメタリックとブラックのインテリアの美容室は客がほとんどいない。しかし、まるでテーマパークのように凝った内装の美容室には客が引きも切らないし、その店で働きたいという美容師もたくさんいるという。
たとえば、キャットストリート沿いにある、一軒家を改造した「ラ・ルマコア」は、茶色の壁面
に窓枠は黄色で、入り口横にはシュロの木があり、最初に見たときは南米料理のレストランかと思った。オーナーが沖縄出身なので、実は南米風ではなく、沖縄風らしいが、しかしもちろん純然と沖縄的なわけでもない。あえていえば、客用の椅子が蛇皮張りなのが、沖縄風か?(沖縄に行ったことがないから、よくわからないのだが・・・)
屋根裏の板はむき出しになり、ドアは青いペンキで塗られている。縁側もある。なんとも不思議な要素が混ざり合っている。
裏原宿の「ストリート・セル」は柱が黄色いので、当然鉄筋造であろうと思ったが、よく見ると木造家屋の柱を塗っただけで、柱の間の壁をはずしてガラスを入れてある。見事な改造だ。
中目黒にある「ビタミン」は、3階建ての商店を改装したものらしく、外壁は真っ白に、店名は真っ赤に塗られていて、やはり白く塗られた(しかし色がはがれて「いい感じ」になった)階段を上ると、美容室がある。しかし、その店内はというと、客の座る椅子は古い床屋のものらしき黒いレザーの椅子と、ただの会議用とおぼしき黒い椅子が並べられ、美容師が座る椅子は、どうやら工場で溶接工かなにかが座りそうな、塗装のはがれた鉄の椅子なのである。
恵比寿の「#401」は、とあるビルの一室にあり、完全予約制で、椅子はひとつしかない。あたかもマッド・サイエンティストの実験室か、美術家のアトリエのような店だ。
そのほか、映画「未来世紀ブラジル」を思わせるような店、モダンな木目の壁を配した店、南欧の古いホテル風、ゴシック風、未来風などなど、実に個性的なインテリアの店が増えている。表参道のDaBは、オーナーが店内のワゴンからシャンプーチェア、そしてスタイリング剤まで自らデザインしたというから念には念が入っている。
美容室はサロンとも呼ばれるが、オーナーが演出した個性的なサロンで会話を楽しみながらヘアスタイルを変えるという行為は、客にとっても相当エキサイティングなものであろう。しかも美容室は、美容師と客が1対1で向き合い、客がみずからの身体の一部の改造を任せるのであり、その意味で手術室的な雰囲気もある。だから、ただ髪を切るだけでなく、まるで映画の中にいるように、ある一定の世界観の中で自分を変身させたいという願望も満たすことができるわけだ。
飲食店では、1980年代以降、ハイテックなカフェバーから、エスニック、無国籍料理店、そしてギーガーをテーマにした「ギーガー・バー」のような店にいたるまで、実に多彩
なインテリアを競う店が増え、空間プロデューサーという、今聞くとずいぶん怪しげな職業がもてはやされた。しかし、考えてみれば美容室はヘアデザインの専門家としての美容師の美意識を表現する空間なのだから、飲食店以上に個性的な店が増えるのは当然といえば当然で、これまでの美容室にむしろ個性がなさすぎたともいえる。
髪の毛だけでなく、インテリア、家具、什器、備品、そして店内音楽にいたるまで、総合的に空間をデザインし、しかも古い空間を改造して、自分らしい空間に造りかえていくという改造欲求まで満たすことができる。映画監督のように「世界」を創造できる職業だからこそ、美容師に人気があるのであろう。
◆参考文献
「h/c」バウハウス、2000 「Casa BRUTUS」2000/7/10 「Tokyo Jammin'」vol.3,
レゾナンス出版,2000 「Mutts」2001/1
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