ガングロギャル

 1999年、渋谷駅前のショッピングビル、渋谷109とその周辺を中心に、ネガフィルムのような顔をしたド派手ファッションの10代女性が多数出現し、「ガングロギャル」「ヤマンバ・ギャル」「ガングロやまんば」などと呼ばれ話題を呼び、海外からも注目を浴びた。
 彼女たちは、黄色人種にあるまじき真っ黒の顔に目元口元の白メイク、銀髪金髪メッシュヘア、超ミニスカートに15センチ以上の厚底靴、ショッキングピンクや原色の服に身を包み、背中にはヴィトン、あるいはプラダのリュックを背負う。その姿は、一見、170センチはあろうかという平成の疑似背高美人スタイルであり、生けるバービー人形か、現代の花魁か、はたまた「やまんば」か……と、見る者に強烈な印象を与えた。
 「ガングロギャル」のピークは1999年後半から2000年前半で、雑誌やテレビ、新聞など、数多くのメディアに取り上げられ、インターネットの掲示板では「ヤマンバギャルをどう思う?」「渋谷のギャルは、顔で人を笑かそうとしているのか」などのテーマで活発なやりとりが行われたり、個人ホームページのコラムや日記に驚愕とともに書き付けられたりと、まさに話題沸騰。
 だが、2000年秋以降、美白の人気アーティスト、浜崎あゆみの影響か、あるいは、あまりに話題になりすぎたせいか、急速に下火になっていく。
 現在(2001年2月)、一端は収束したといってよいであろう「ガングロギャル」だが、一体どのようなスタイルだったのか。とくに1999年後半に話題となった「ガングロやまんば」の特徴をくわしくみていこう。
 まず、第一に肌が黒い、特に顔が黒人のように黒い。これは、海や山で遊んで健康的に自然に日焼けした肌ではなく、「健康的な黒い肌になるために」日焼けサロンへこまめに通 って人工的に焼いた結果だったり、あるいは、黒人用のファンデーションなどを用いて、ことさら「黒い顔」にした結果 である。
 このため、「ガングロ」とは「顔黒」のことのように思われるが、女子高生サークル「PONTA」のウェブサイトにある「コギャル語小辞典」によると、「ガングロ;ガンガン黒いの略。“顔黒”は当て字。ガングロ→ゴングロ→バチグロの順でより黒くなる」とある。「ガングロ」とは、コギャルたちのスラングから一般 に広がった言葉のようである。
 第二の特徴が、その黒々した顔の目まわりと口元を真っ白にぬった、逆パンダのような過剰なメイクと、不揃いな毛先をゆらゆらたなびかせた銀髪や金髪のメッシュヘアだ。このネガフィルムのような特異ヘアメイクが、能や浄瑠璃、歌舞伎など日本の伝統的演劇や舞踏、音楽に登場する定番キャラクターである「深山に住むとされる女性姿の妖怪、人を食う鬼女」(講談社発行『日本語大辞典』より)の「やまんば」イメージと重なり、あるストリート雑誌が「やまんば」と命名したといわれている。
 インターネット上で公開されている個人ページのコラムや日記において「言い得て妙だ」「なるほど」と、多くの人々が、この言葉に共感している点が興味深い。
 「ガングロやまんば」とは、ふつうの人々にとって「妖怪、鬼」のように怖くて、非現実的非日常的な異世界の産物に感じられるということである。逆に「ガングロやまんば」本人たちにとってみれば、舞台のような仮想の世界、常人にとっての異世界を唯一の世界として生きているといえるかもしれない。
 第三の特徴が、ショッキングピンクや原色の服の組み合わせ、パンツが見えそうな超ミニスカート、15センチ以上の“超”厚底靴といった、とにかく目立つ派手なファッションだ。服の調達先は、「マルキュー」と彼女たちが呼ぶ、渋谷109のショップやブランド群で、エゴイスト、ロコネイル、ココルル、アルバローザ、ジェイアイマックス、セシルマクビー、エスペランサ(厚底靴)などなどである。
 こうした「ガングロやまんば」スタイルは、一部には「気持ち悪い」「かわいくない」と不評をかっており、「男ウケを無視したファッション」などといわれている。が、とくに注目すべきは、白髪金髪のシャギーなメッシュヘアと超厚底靴というふたつの特徴だ。
 この2点は、1990年代初頭に注目を浴びたストリートファッション「女子高生スタイル」の“きれいな茶髪とルーズソックス”から生まれた「より軽やかに見える頭とボリューム感ある足元」というおしゃれの新ルールをふまえ、過剰なまでに進化した形といえる。
 「ガングロやまんば」スタイルは、女子高生スタイル、つまり、コギャル・スタイルから生まれたといえよう。加えて、ミニスカートという共通 点もある。
 前述の「コギャル語辞典」によると、「ヤマンバ;妖怪の山姥(白髪の老女)みたいに白髪、ゴングロでパンダメイク(目の周りが白)のギャル。コギャルの最終進化形態」と、女子高生自身も同様の定義をしている。
 「ガングロやまんば」スタイルは、1990年代初頭の女子高生スタイルに端を発し、90年代のファッション・リーダーとなったコギャル・スタイルの最終進化形なのである。  

*詳しくはカルチャースタディーズ叢書をご覧下さい。