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004 規制緩和、自己責任の美名の下に、コミュニティは「液状化」し、ファスト風土化が日本を浸食している。
ジャスコ文明は、やはりある。
前回、犯罪が起きる場所の近くにはジャスコがあると書いた。バスジャック事件のあった佐賀市郊外にも、連れ去り事件のあった三重県桑名市や新潟県村上市にもジャスコがあったからである。最近話題となった事件の起きる場所とジャスコの立地になにか相関があるのだろうか。
これはもしかしたらと思って、私は、ここ数年に起きた主要な犯罪について、周辺にジャスコがないかチェックしてみた。すると驚くほどの確率でジャスコがあるのだ!
前回触れた青森県弘前市の武富士事件の犯人は、弘前の隣の浪岡町に住んでいたが、この浪岡町にはジャスコがある。弘前市と浪岡町を結ぶ国道7号線から少し入ったところだ。そこからさらに北へ10キロほどいった、五所川原市の西隣の柏村にもジャスコを含むイオンショッピングセンターがある。
柏崎の女子監禁事件も、女子が連れ去られた三条市にはジャスコがある。柏崎にも2004年にできる。三条市のジャスコは新幹線の燕三条駅や関越自動車道の三条燕インターチェンジから国道289号線を東に2キロ行ったところにある。燕三条駅の西側にはサティ、ワーナーマイカルのシネマコンプレックスなどが集積する大商業ゾーンがある。
ちなみに柏崎では、2003年9月、21歳の大学生が、交際中の女子高生を刺すという事件があった。別れ話を持ち出されて、女子高生を自分の車に閉じこめて殴ったという容疑で指名手配されていた。そのため女子高生宅では玄関付近に警察が警戒していたが、裏の風呂場から侵入したという。今や柏崎は監禁とストーカーのメッカというわけだ。
連れ去り事件では、2003年10月には静岡県袋井市太田の路上で小学4年生の女子が連れ去られる事件があったが、太田は東名高速袋井インターチェンジのすぐ北にあり、さらにその北の袋井市上山梨字宮西にはジャスコ袋井店がある。
同じ2003年10月に埼玉県岩槻市仲町の県道で乗用車に乗った男が27歳の女性の乗用車に追突し、男が女性の車に乗り込んで、女性を助手席に押しやって自分で運転、約1キロ離れた衣料品店前で女性が車から店内に逃げ出すと、男が後を追いかけて刃物で女性の頭などを刺して重傷を負わせるという事件があった。仲町の隣の本町にはジャスコ岩槻店、JR岩槻駅前にはサティもある。どうもやはり連れ去り事件の近くにはジャスコがあるようなのだ。
2003年12月には、茨城県八郷町で、中学生がインターネットの殺人サイトを見ていて人を殺したくなり、妹を殴打するという事件が起きた。八郷は東北自動車道の沿線であり、町から5〜6キロの笠間にはやはりジャスコがある。
2003年8月に起きた 大阪の河内長野市の家族殺害事件も、河内長野駅から4キロほどの近鉄長野線富田林駅付近にジャスコがある。富田林や河内長野は典型的な郊外ニュータウンである。
事件を起こした男女は富田林駅で犯行計画を話し合ったという。男子は19歳の美大生といわれており、住所は河内長野市寿町。河内長野駅まで1キロほどの住宅地。女子はやはり美術系の高校生1年生で住所は南河内郡河南町さくら坂。富田林駅までは5キロほどあるので、おそらくバスで駅まで出るはずだ。つまり二人の家から時間的にも地理的にも中間の視点が富田林駅だったのであろう。
富田林では2004年1月にも、無職の19歳の少年が出会い系サイトで知り合った19歳の少女2人を連れ去って身代金460万円を要求するという事件があった。
2003年8月に、熊谷市で28歳の飲食店員男性が殺され、同僚女性3名も監禁の後、殺傷されるという事件があった。主犯格は26歳の元暴力団組員の男だが、16歳の無職少女、15歳の無職少年らも事件に深く関与していたことで大きな波紋を呼んだ事件だ。
殺された男性は熊谷市のJR熊谷駅から北へ1キロほどの箱田7丁目のアパートに住んでいた。女性たちが監禁されたのは秩父市黒谷の美の山公園、重傷を負った同僚女性が見つかった現場は熊谷市大麻生の工場敷地だが、これらの現場はいずれもほぼ国道140号線沿いに位置する。女性たちを拉致監禁した車が140号線を往き来したのであろう。
そして140号線から17号線に入りJR熊谷駅方向へ東進すると本石2丁目には片倉工業の工場跡地に2000年に延べ床面積64000Fのサティができている。サティはかつてはマイカル(ニチイ)グループだが、今はイオングループである。
2000年の12月と2001年1月には愛知県知多郡武豊町で、似たような幼児虐待事件があった。2000年12月の事件は、21歳の会社員が3歳の長女を段ボール箱に閉じこめ、ふたをしたまま放置、一日にわずかな食べ物を与えるだけで、餓死させたというもの。2001年1月の事件は、25歳の溶接会社社員が内縁の妻の子で2歳と3歳の幼児を熱湯の入った風呂に入れてせっかんし、やけどを負わせたというもの。同じ町で同じ時期にこれだけ似たような事件が起こること自体驚きだが、この武豊町の北5キロ、知多郡東浦町大字緒川にはイオン東浦ショッピングセンターが2001年7月にできている。延べ床面積77826Fの巨大なSCであり、別名ジャスコメガマート東浦という。
さらに、小さな事件だが、2003年11月には佐賀県鳥栖市で3歳の子どもが補助輪付き自転車で5キロも走って家からショッピングセンターまでひとりで行き、迷子になったところを保護されたという事件があった。鳥栖市は私が9月に九州取材をしたときに乗った、佐賀から福岡までのバスの走る九州自動車道沿線であり、ショッピングセンターというのはジョイフルタウン鳥栖というが、その核店舗はジャスコである。3歳の子どもが5キロも走れるのだから道は平坦なのだろう。これも道路行政のなせるであろうか。
2003年10月には、名古屋市昭和区広路本町の飲食店員の女(27歳)と交際している高校3年の男子が、女の4歳の長女に暴行し、殺した事件があったが、昭和区広路町字石坂には延べ床面積61603Fのジャスコ八事店がある。名古屋市内とはいえ、このあたりは郊外であり、ジャスコは国道153号線沿いにある。
2004年1月25日に発覚した中学生虐待事件のあった大阪府岸和田市南町は近くを阪神高速4号湾岸線が走っており、1.5キロほど離れた国道20号線近くにサティがある。このサティも1979年開店と古いが、延べ床面積は7万F近い大型店である。
このように最近事件のあった地域を調べるとなぜかジャスコがありサティがある。周辺には高速道路があったり、大きな国道、自動車専用道路があったり、しばしば農村部であったり、郊外であったりする。
事件、犯罪に限らず、社会事象に法則性や因果関係を見いだすことは難しい。なんとなく相関がありそうだという仮説しか立たないのが通例だ。事件のあるところにジャスコがあるという仮説も、もちろん一定の傾向性を示す仮説に域を出ない。事件があってもジャスコのないところもあるし、事件のないところにもジャスコはある。が、それにしても頻度が高い。なぜだろうか。
歴史ある弘前や村上の町は完全崩壊寸前。
弘前市の武富士事件の現場に私は2003年12月19日に行ってみた。すでに武富士のあったビルは取り壊されていたが、事件現場付近は典型的なロードサイドであり、弘前の中心市街地と国道7号線を結ぶバイパス沿いであった。バイパスはおそらく中心市街地をモータリゼーションに対応させるという目的でつくられたものであろう。ちょうど今は中央通りという商店街まで延伸させる工事中であった。
私は中央通り沿いのホテルに泊まったが、ホテルの一階には紀伊国屋書店があり、その品揃えの充実ぶりから弘前の文化水準の高さが伺える。街には古い教会もいくつかあり、武家屋敷が保存され、明治期の図書館なども保存されるなど、非常にしっとりとした良い街である。しかし道幅の広いバイパスが開通し、自動車が大量に往来するようになれば、古い街並みを分断し、界隈性が消え、かえって街の没落を早めるのではないかと危惧された。
対して、1992年に延べ床面積47860Fのイオン柏ショッピングセンターができた柏村は、国道101号線沿いに多くの商業施設が林立し、発展している。このあたりはJR五所川原駅から2,3キロ西だが、五所川原駅の南東にはイトーヨーカドーを核とするショッピングセンター、エルムの街などの大規模商業集積地域があり、その南に隣接して「つがる克雪ドーム」という大きなスポーツ施設ができている。
柏村は面積14平方キロ、人口5269人(2003年)という小さな村だ。しかし過去5年の人口の伸びは4.2%増だから、イオン効果は歴然としている。小売業には小売り教員力という概念がある。ある地域の平均的な常住人口あたりの小売業販売額を100としたとき、100を越えれば小売吸引力が高く、100未満なら吸引力が低いと考える。他の地域から買い物客を取れば100を越えるし、客を取られれば100を割るからである。
全国平均の小売り吸引力、つまり日本人平均の一人あたり小売り販売額を100とすると、最も吸引力の高いのは東京都千代田区で1670である。人口が4,5万人しかないのに、販売額が大きいからである。中央区は1008、横浜市西区は811、名古屋市中区は994,大阪市中央区は1468,北区は896、福岡市中央区は412などとなっている。当然大都市の中心部ほど高い。しかしなんと柏区の小売吸引力は543である。つまり福岡市の中心部以上の吸引力を持っているのだ。言い換えると、常住人口の5倍の客を集めていると言うことができる。
写真:弘前事件現場界隈
写真:弘前市中心市街地 閉店している店が多い
写真:弘前市には歴史や文化を感じさせる街並みが残っている
写真:柏村のイオンショッピングセンター
村上市には2004年1月21日に行ってみた。前回も触れたように、雅子妃ゆかりの村上藩の町であるから、格式のある家が今も残っている。連れ去られた少女の通う中学校は市街地の北側にある門前側のさらに北であり、1997年にできたばかりである。校舎の近くには住宅地が売り出されていることから、人口4万4千人という小さな村上市にも郊外化が起きたことがある。そのため学校を新設したのであろう。
被害者の少女の家があるあたりは川に沿って東へ1,2キロほどであり、住宅地と農村部の境界地域というか共存地域であり、新しい弓道場や福祉施設もできている。
そこから国道7号線で川の南に戻ると村上城趾裏手の一帯がジャスコを中心としたロードサイド店の集積地になっている。プロミス、アコムなどサラ金数社が集まった建物もある。静かな古い雪国の風景にはあまりにも似つかわしくないけばけばしい風景だ。
このジャスコはなんと24時間営業である。こんなところで24時間営業する必要があるのかと思うが、新潟県内のジャスコは多くが24時間営業だという。そういえば上越に帰省したとき、上越のジャスコも年末年始が24時間営業だった。少しでも売上を上げるための方策であろうが、どれだけ効果があるのか。それにそこで働く人は当然近隣の人のはず。父親か母親か長男か長女か知らないが、夜中に家を出て朝に帰ってくるような暮らしをしているわけだ。そういう生活の変化が、家族や地域に影響をもたらさないか心配になる。
写真:連れ去られた少女の通う中学校の横にも郊外宅地開発の波が押し寄せていた。(村上市)
写真:村上城趾の裏手の静かな農村地帯のロードサイドが「ファスト風土」になっている。
99年12月に、京都市伏見区の市立日野小校庭で小学生が殺傷された、いわゆるてるくはのる事件でも、犯人が住んでいて、事件後飛び降り自殺した伏見区の向島団地には国道24号線があり、京都滋賀バイパスの宇治西インターチェンジに向かってのびている。向島団地に私は2003年12月2日に行ってみた。住んでいる人には申し訳ないが、あまりよい環境とは言えなかった。まず駅前に送電線の鉄塔が2本も建っている。そこから数分の団地はあまりに巨大で、ヒューマンスケールとは対極にある団地である。また市営住宅と公社住宅の間には細長い公園があるが、なぜかこの公園には鉄柵があり、市営住宅の側からは公園に入りにくくなっていた。公園なのにこんなに柵で仕切るとは、住民間の対立があるのだろうかと不思議に思った。
24号線はかつての奈良街道らしく、そのため道がやや蛇行しており、歩道も狭く、交通量に比して狭い感じがする。ロードサイドにはマクドナルド、ロイヤルホスト、ユニクロ、トイザラスなどが立ち並び、典型的な郊外ロードサイドの風景である。
すでに洋服の青山は退店しており、空の店舗があるため、この一帯全体がどことなく寂れて見える。そして宇治西インターチェンジの西4キロには国道1号線との久御山ジャンクションがあり、その横にジャスコ久御山店を核とするコミュニティータウン久御山がある。コミュニティータウン久御山は98年にできたものであり、延べ床面積44000Fと大規模である。隣接してロックタウン久御山という家具、DIYなどの大規模小売店(延べ床面積19667F)が2000年にできている。おそらくこれらの出店によって、向島地区のロードサイド店の売り上げは落ち、寂れた雰囲気になったのではなかろうかと推測される。
てるくはのるは、小学校時代に別の所から引っ越してきたのだが、引っ越しをいやがったらしい。それがこの向島団地だったからなのか、他の理由なのかわからないが、青少年犯罪には引っ越しが契機となることが多いように思う。酒鬼薔薇もそうだし、長崎の事件もそうだ。てるくはのるは結局引っ越す前に通っていた小学校の隣の小学校で小学生を殺害した。高校受験に失敗したのは佐賀の少年と同じである。引っ越しと受験の失敗の重なりはかなり大きな精神的動揺を与えるであろうことは想像に難くない。もちろん、その程度のことで動揺などせず、しっかり生きるべきだし、まして人を殺していいはずはないのだが。
2003年12月18日には京都の宇治市で小学校に刃物を持った男が侵入し、児童に切り付けるという事件があった。これはまさに向島団地のすぐ東、宇治川の近くにある小学校である。
12月9日には、やはり向島の定時制高校の女子(17歳)が、右京区梅ヶ畑栂尾街の清滝川河川敷の駐車場で遺体で発見されるという事件があった。新聞報道によれば、遺体の発見された現場は高尾山の中を走る国道162号線沿いだという。162号線を京都の中心部の方向に下り、四条通に入るとすぐにジャスコがある。
2003年10月には、西京区上桂大野町の路上で小学6年生の女子が連れ去られる事件も起きている。上桂のすぐ南の阪急桂駅前にはサティもある。いずれも桂離宮の近くである。古都京都のファスト風土化も近いのか?
ここから国道9号線を東に2キロほど行った五条通にも今年3月にジャスコができる。ノーベル賞の田中さんの会社島津製作所の工場跡地だという。熊谷のサティも工場跡地だが、バブルの頃ならテーマパークだホテルだと再開発計画が目白押しだったのだろうが、今はジャスコ出店くらいしか跡地利用法がないのかも知れない。ダイエーも西友も出店する力は弱い。イトーヨーカドーも今ひとつだ。とすればジャスコしかないということになるのだろう。ついでにマイカルグループだったワーナーのシネマコンプレックスも出てくれれば活気が出ると、地元商工会が思っても当然である。
写真:向島団地
写真:京都てるくはのる事件の現場付近もロードサイドだった。
足利連れ去り犯は高速道路を走り続けた。
2003年12月には栃木県足利市大久保町の農機具小屋北側の農道で女子高生が連れ去られる事件があった。足利といえば、前回私が紹介した平成4年度の警察白書がケーススタディとして研究した市である。ご丁寧なことに事件の現場から西へわずかに数キロの群馬県太田市には、事件の翌日にジャスコを含む延べ床面積95969Fという巨大なイオン太田ショッピングセンターが開店したのである。
犯人は愛知県出身の住所不定無職本木正昭(38歳)。本木は11月26日に新潟県小千谷市で、12月2日は同県新発田市で連れ去り未遂をしている。実際に2004年1月21日に私は現地に行ってみた。すると日本海自動車道と国道7号線を結ぶ聖籠新発田インターチェンジがあり、その付近には大きな商業集積ができている。(偶然だが聖籠町は2003年12月に大阪府堺市の中学1年生男子がホームページを勝手に書き換えた小学校がある。)
国道7号線といえば、前回触れた連れ去り事件のあった村上市、そして武富士事件のあった弘前市や、その犯人が住んでいた浪岡町までつながっている道だ。実際走ってみると本当に交通量が多く、大きなトラックがたくさん走っている。沿道にはパチンコ店など各種のロードサイド店が軒を連ねている。いろいろロードサイドも見てきたが、これだけだらだらと店が続いている道は珍しいのではないか。
写真・国道7号線
パチンコ店でも、古い店は廃業している。新しい、建築的にもスキッとした概観の派知今店は昼間でも駐車場に車が止まっている。どこかの大企業の研究所かと思うような、巨大なパチンコ店もある。
また、小千谷市での未遂事件も、国道117号線から少し西に入った農村部の農道上で起きたという。どうも主要幹線道路から農道に入るのがこの犯人の手法らしい。
そして現場付近から1キロほどしかないところにはジャスコ、その隣には新潟県資本のスーパーのコメリがある。コメリは最近急成長しており、東証一部上場企業だ。
ジャスコやコメリの周辺には、マクドナルド、ケンタッキー、青山など、いつもお揃いのロードサイド店が並んでいる。その西には国道10号線が走り、さらにその西が関越自動車道。10号線から関越自動車道に向かって国道357号線と291号線が走り、291号線は小千谷インターチェンジにつながる。小千谷インターチェンジの北は山谷インターチェンジであり、ジャスコやコメリはこの2つのインターチェンジからほど近い。
写真・小千谷ジャスコ
この犯人は、まず関越自動車道で小千谷インターチェンジか山谷インターチェンジで織り、国道を走り、その後農道に入ってまず連れ去り未遂を起こし、次にまたおそらく関越に戻って、北陸自動車道に入り、さらに日本海東北自動車道に入って聖籠インターチェンジで降り、そこでまた連れ去り未遂を起こし、再び来た道を引き返したか、磐越自動車道と東北自動車道を経由したかどうか不明だが、足利まで行ったのであろう。
その後、女子高生の携帯電話が千葉県や茨城県で発信していたことがわかっている。つかまったのは茨城県土浦市。車は新潟ナンバーだったが、これは小千谷での未遂後に盗んだ車であるという。もちろん、小千谷以前にも未遂にすらならない事件を起こしていたのかもしれない。とにかく、車を盗んでは走り、走っては連れ去りを繰り返していたのだ。そして高速道路からジャスコなどのショッピングセンターが見えると、一般道に入り、その後人気の少ない農道で下校する女子を狙っていたのであろう。
ちなみに小千谷市では1999年1月に、市内の高校2年生の男子が71歳の女性を殺害するという事件も起きている。小千谷ちぢみと錦鯉で有名な雪国の静かだった町も、今はそう静かでもないのである。
コミュニティの流動化
ジャスコを中心とするイオングループは、ジャスコ、サティという総合小売業だけでも327店舗持っている。国土面積38万平方キロ、平野部は12,3万平方キロしかない日本に327店ということは、ほぼ360平方キロ弱に1店はあることになる。つまり18キロ四方の範囲に1店はあるわけで、どこからでも10キロ行けば必ずジャスコかサティはあるわけだ。だから犯罪の起きた場所に近くにジャスコがあるというのは、その意味では当然だ。
もちろんジャスコが犯罪と直接関係しているわけではない。すでに警察白書が指摘しているように、全国に張り巡らされた道路網とモータリゼーション、それに伴う郊外化によって、日本の地域社会の流動化と不安定化が進み、犯罪を誘発しているのだ。かつ郊外化による犯罪の広域化により、警察が日常的に目の届かない地域に犯罪が拡大し、それにより警察の初動が遅れる。
おそらく、暴力団の活動範囲も、昔であれば中心市街地の歓楽街に限られていたのが、郊外のパチンコ店やスナックやカラオケ店などにまで分散しているはずである。狭い歓楽街だけを見回ればすむ時代ではなくなった。しかも所轄を複数またがる犯罪が増えているために警察の捜査がますます困難になる。こうした理由から、近年犯罪検挙率が低下しているのであろう。
さらに、これも警察白書に指摘されているが、大量生産品の増加により、物的証拠による捜査が困難になっているという。大量生産品なんて昔からあるじゃないかと思うかも知れないが、日本中の田圃の真ん中のスーパーで、まったく同じアディダスやナイキのジャージーやスニーカーが売られているという状況は、この10年ほどに起きた現象だ。2000年12月に世田谷で起きた一家惨殺事件の犯人が着ていたと言われる服装も、あまりにもありきたりで何の手がかりにもならない。日本中の人間が、ロードサイドのチェーン店で売っている同じものを着るようになったので、犯人の特徴がつかみにくくなったのである。
かつ、新しいニュータウン、郊外住宅地の開発は、地域住民のコミュニケーションとコミュニティを消滅させた、あるいは衰弱させた。田舎でも昼から玄関の鍵を閉めるようになり、プライバシーが重要になった。いきおい近所づきあいは減り、隣は何をする人ぞという価値観が広がった。そうなると、警察の捜査も益々やりにくくなる。まして車に乗って移動する人がほとんどすべてになれば、人を町で見かけることも減る。捜査が困難になるのだ。
弘前の事件にしても、あれだけよくできた似顔絵がありながら、犯人逮捕まで1年もかかったというのは、どういうことなのか? 犯人の顔を知っている人が隣近所にもいなかったのか? まったく不思議だ。地方においてもコミュニティが衰弱していると考えなければ理解できないであろう。
こうした日本全土の総郊外化、ファスト風土化の大きなメルクマールがジャスコだ。郊外化が進めばジャスコが出店するし、ジャスコが出店すればますます郊外化が進む。郊外化が進んで、不安定化し、流動化した地域社会はいま述べたように犯罪を抑制する機能が低下している。あらぬところから高速道路に乗って、どんな犯罪者が来るかも知れない。犯罪者も腹が減るから、たまにはロードサイドの商業集積地で食事をするであろう。しかし周りに知る人はいない。そして駐車場で、たくさんある車のなかから気に入った車を盗めばよい。
すべての道はジャスコに通ず
もちろん、事件現場の近くにあるのはジャスコではなくダイエーでもイトーヨーカドーでもなんでもいいはずなのだが、実際ジャスコが最も地方の郊外に多数出店しているのだ。
たとえばイトーヨーカドーは北千住発祥の会社ということもあり、東京圏中心に出店だ。都内だけでも30店以上、神奈川県にも30店以上、埼玉、千葉にはそれぞれ
20店以上ある。店舗の立地は駅付近が多い。私の知る限りでも、郊外の店でも多摩ニュータウン店もたまプラーザ店も武蔵小杉店も駅前だ。対して、たとえば東北では青森4店、岩手1店、宮城3店、秋田1店、福島4店である。東洋経済新報社の「全国大型小売店総覧」で見ても、イトーヨーカドーの出店地域は地方でも郊外より駅前が多い。
ところがジャスコは東京には4店しかない。おそらく東京に住んでいる人はジャスコなんてどこにあるのか知らないだろう。ところが東北にはスーパーのマックスバリューなどを合わせると、青森県だけでも32店もある。岩手県には14店、秋田県には55店もある!! 山形県も39店、宮城県は22店だ。
巨大SCイオンショッピングセンターもたくさんあるが、店舗数で特に多いのはマックスバリューだ。マックスバリュー東北(株)のホームページを見ると以下のように書いてある。
「2010年東北No.1スーパーマーケットチェーンの構築」に向けて」「積極的な出店と店舗の統廃合を図りながら、事業規模の拡大とドミナントエリアのシェアアップを推し進め」、そのために「24時間営業等への対応を行い、ライフスタイルが多様化しているお客さまに一層の利便性を提供してまいります。」「積極的なスクラップ&ビルドにより、ドミナントの拡大を図ります。」
ドミナントとは、小売業界用語で高密度多店舗出店による勢力範囲のことである。まさに東北地域は、あたかもローマ帝国か蒙古の時代のように、ジャスコの勢力拡大地図の中にあるのだ。
このように、ジャスコは日本の地方の郊外化の象徴である。日本中の地方にジャスコが出き、小売業の規制緩和と流通近代化の先端を走っていることは、かつて日本中の商店街が「銀座」と名付けられ、モダンな商業が起こったのと似ているかも知れない。
しかし銀座は街をつくる。ジャスコは街をつくらない。むしろつぎつぎと街をスクラップアンドビルドしていく。ジャスコが来た町は勝ち、来ない街は負け、衰退するしかない。それが自由競争であり、自己責任社会の原理だろう。しかしその原理だけでいいか、それで人間が住むコミュニティができるかと言えば、それは否であろう。
規制緩和はコミュニティをつくるのか、壊すのか?
構造改革、規制緩和、自己責任という美名の下に、日本中のコミュニティの完全なる崩壊が始まっている。その崩壊は、ガラガラと音を立てて崩れ落ちるような崩壊ではない。見かけ上は立派な道ができ、商業施設ができ、ニュータウンに新しい家が建っている。しかしその地盤が揺らいでいる。コミュニティのよって立つ地盤が、流動化し、液状化している。地面の上には立派な建物が建っているが、その土台がどろどろになっている、そんなイメージだ。
大地震による液状化は、地中に均等にしみこんで接着剤のように土を結びつけていた水が、地震の震動によって土と分離し、地盤が液体のようにどろどろになることをいう。地域社会、コミュニティというものも、毎日の人間関係などによって安定している。つまり、生活時間、生活空間、価値観などが共有されていて、人々のコミュニケーションが緊密であればコミュニティは安定している。しかし生活の個人化が進み、価値観も多様化し、生活時間が人それぞれになるなどの事態が進むと、コミュニティが一気に液状化すると言えるであろう。
そうした現象はこれまで長い間大都市に固有のものだと思われてきた。地方の、特に農村部は、反対にまだまだ地縁血縁が強く、べとべととした人間関係があるとすら言われてきた。もちろんそういう傾向はたしかに今もある。が、他方では、急速にそうしたコミュニティが衰退しつつあるということもまた事実であろう。そして新しいコミュニティは必ずしもできていない。
2004年度もイオンは23店出店する。ウォルマート傘下に入った西友も出店を強化し、10店を出す。イトーヨーカドーは8店である。日経新聞によれば、工場跡地など大型店の出店に適した土地が増加しているという。
また同じく日経新聞によると、イオン、イトーヨーカドー、西友、ダイエー4社のうち、23時以降まで開店している深夜営業店舗が2004年2月末で全店舗の70%を占め、1年前より300店舗増加しているという。2000年6月の大規模小売店舗立地法の施行で、スーパーの深夜営業が原則として自由化されたからである。イオンに至っては370店のうち深夜営業が329店、24時間営業ですら159店ある。
イトーヨーカドーは179店中深夜営業が106店、24時間営業はなし、西友は211店中深夜営業が105店、24時間営業が14店、ダイエーは266店中深夜営業が160店、24時間営業は2004年度は未定だが、2003年度は10店である。いかにイオンが24時間店舗が多いかがわかる。もちろんコンビニは全国でほぼ全店舗が24時間営業であろう。
さらに日経新聞によれば、午後10時以降の勤務には25%の割り増し手当がかかる。しかも従来2回だった勤務シフトを3回に増やす必要が生ずるなど、深夜営業の人件費は日中の1.5倍に達する。そこでコスト削減のため、夜間を派遣社員やパートタイマーだけで運営する店舗も現れたほか、通常は早朝行う商品の陳列を夜中に行う店もあるという。大規模なショッピングセンターを24時間運営するとなれば、相当な無理が必要になることは想像に難くない。
都市の消費文化を代表するパルコだって、8時か9時で閉店だ。ところが日本中の田圃の真ん中で、雪国の山の中では24時間営業が普通になっている。これはどこかおかしくないだろうか。
先にも書いたように、父親か母親か長男か長女か知らないが、深夜に家を出て朝に帰ってくるような暮らしをしているわけだ。そういう生活の変化が、家族や地域に影響をもたらさないわけはないだろう。
そもそもなぜ深夜にパートに出るのか? 地方でも住宅ローンの負担が増えているのか、教育費がかかるのか、夫の会社が傾き給料が減ったのか? 息子の通勤に車を買う必要があるからか? 娘の進学資金のためか?
たとえば母親がパートに出るとしよう。父親が夜6時頃帰宅する。夕食を作り終えた母親が、そそくさとパートに向かう。帰ってくるのは深夜3時。そんな生活が増えているのかも知れない。たしかに既婚女性の就業率は地方のほうが高い。それでも父ちゃんが冬場に東京に出稼ぎに行く時代よりは今の方が良いと思うのかも知れないが、はたしてどうなのか。
他方、地方で24時間営業が成り立つほど、生活時間が夜型になっているということも、にわかには信じがたい。もちろん客は地元民とは限らない。トラックの運ちゃんが深夜に立ち寄るのかも知れない。
いずれにしろ、かつては大都会の一部の人のものだった24時間型の生活が、驚くほど急速に全国の地方に広がっている。それは、遅れているが、のんびりしているという地方のイメージを根本から覆すものだ。地方の現実は急速に24時間化し、ライフスタイルが奇妙に都市化し、消費社会化しているのである。そこに何の問題も生まれないはずはない。
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