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002 インタビュー『間取りの手帖』

著者:佐藤 和歌子(マドリスト)
編集者:大嶺 洋子(リトル・モア)
聞き手:三浦 展


三浦 僕はこの本を高円寺文庫センターで、出た頃すぐに見つけたんです。文庫センターの人が、「これ、売れてるんで、あと1冊しかないですよ」とか言っていたんですが、結局買わなかったんです。
なぜかというと、実は僕も結構マドリストなので、掲載されている間取り図に別に驚きがなかったということと、むかーし、自分でもこういう本を頭の中であったらいいなと企画したことがあったので、まあいいかと思って。それとこの本の図面ってトレースしなおしました?
佐藤 そうですね。
三浦 ですよね。だから少し味わいに欠けるなあと思って買わなかった。
でも、考えてみると、今の賃貸住宅情報誌って、きっとみんなDTPでつくっているから、間取りの図面も昔みたいに手がきじゃなくて、もともと味はないのかなとか思ったんですけど。
佐藤 いやあ、でも、紙が汚いから、結構味はあるんですけどね。他の人からも図面がきれいすぎてちょっと、と言われたことがありまして、ああ、見てる人は見てるなと。
三浦 でも、まあ、僕が十数年前に思ったことが、こんなに時を経て、誰かによって本当に本なるとは思いませんでした。
 で、月並みな質問ですが、どうして間取りに興味を持ったんですか?
佐藤   友達が引っ越しをしようとしていて、情報誌を見てたので、それを隣で見ているうちに、面白いなと思って。捨てるのはもったいないなと思って、とっておいたんですが、それがいつの間にかたまってしまって、という感じです。
三浦   で、切り抜いては何かに保存したあったんですか?
佐藤   いやあ、ずぼらなんで、捨てなきゃどっかにあるだろって感じでおいといたんですけど。まあ、だんだんそれで収拾がつかなくなって。お掃除とかしてると、なぜかタンスの中から間取りの切り抜きが出てきたり、本棚から本を取ると、切り抜きがぱらぱらっと落ちてきたりというのが、ちょっといやになって、それからスクラップをするようになったんですけど。
三浦   何年くらい集めたんですか?
佐藤   3年くらいですかね。
三浦   佐藤さんは川崎市の出身。どのへんですか。
佐藤   新川崎っていうJRの駅が一番近いんですけど。
三浦   じゃ、殺風景なところですよね。
佐藤   何もないところ。
三浦   そこに何年住んだんですか?
佐藤   生まれてからずっと。
三浦   ずっと! じゃあ、新興のマンションとかではない。
佐藤   持ち家で、祖父の家とうちの親の家と2つあって。
三浦   もともとそのへんの人なの?
佐藤   祖父は山形からこっちへ出てきて、で、土地を買って、家を建てて、それでうちの父が結婚したときに、同じ敷地内に家をもう一軒建てて。
三浦   それは普通の家なの。
佐藤   普通の家です。
三浦   特にこの家に育つと間取りに興味を持ちそうだなという家ではない?
佐藤   いやあ、ないと思います。
三浦   でも、なんで間取りにはまったんだと自分で思います?
佐藤   なんだろうな。立体が苦手なんですよ。数学の問題でも二次元の図形まではわかるけど、三次元になると途端にできなくなるっていう。だから、立体を家を二次元の図面にしていることが、何となく好きなんじゃないかと。
三浦   こんなに部屋を見て引っ越したくならないんですか?
佐藤   いやあ、別に部屋見ても引っ越したくはならないですけど、遅く帰ってきて親に怒られたりすると、ああ、引っ越したいなと思うことはありますけど。
三浦   たとえばこの本の中で、これに住んでみたいというのはありますか。
佐藤   いやあ、そんなに、自分が住む対象としてみていなかったから。
三浦   実際に見に行ったものはあるんですか。
佐藤   全然ないです。
三浦   見たいという気持ちはおきない?
佐藤   あんまり。面倒くさいから。
三浦   間取り図を集めるだけでも十分面倒くさいでしょう。
これは集めたものからまた厳選してるんですか?
佐藤   そうですね。
三浦   情報誌を毎号見てたって感じ?
佐藤   そんなにまじめじゃない、、、
三浦   よねえ。(笑い)でも一応マドリストって書いてあるから、、、
佐藤   何も肩書きに書くことがなかったんで。

三浦   編集サイドにお聞きしますが、どれくらい売れているんですか。
大嶺   四刷りで10万部。
三浦   このまえ京都の美大の先生をしたんだけど、そこに岐阜の書店でバイトしている子がいて、その子が岐阜の本屋でも平積みになっているって言ってましたよ。結構全国的に売れているんですか?
大嶺   10万行ったということは、そういうことなんでしょうねえ。
三浦   僕、岐阜県のことはよく知らないけどさ、そんなに賃貸アパートがたくさんある地域じゃないよね。
大嶺   そうですよね。岐阜の物件はこの本にもない。
三浦   ないよねえ(笑い)。なのに岐阜でも売れるってことは、どういうことだと思います? こんなに売れるとは思ってなかったでしょ、編集者も。
大嶺   売れるとは思ってたんですけど。岐阜の書店で平積みって具体的に聞くと、そこまで全国展開するとは思いませんでしたよね。ただ、ねらいとしては、企画そのものが売れる企画だし、売らなきゃいけない企画なので、青山ブックセンターとかパルコブックセンターとかでしか売れないものではない本にしようと思っていたので。でも岐阜まではねえ。
三浦   で、売れてみて、どのように分析されてるんですか。
大嶺   分析っていっても、、、ねえ(笑い)。
三浦   佐藤さんもこんなに売れるとは思ってなかったんでしょ。
佐藤   普通の初版で終わりだろうと。本ができて、友達とかに、できたよって渡しても、これ、いいけどさ、誰が買うの?って言われて、はて?と思っていたんで(笑い)。だから、二刷りだって聞いたときは、意外と行けるんだあって感じでしたね。
大嶺   なんとなく、家のことに、みんなの視点が、不況ってこともあるし、来てるかなって気はします。外でゴージャスな食事をするよりは、家でちょっとしたおいしいものを、東急フードショーで買って食べましょうとか、家に、家にと関心が向かっている。家電とかもそう。ま、こじつけですけど。でも、三浦さんもそうだけど、みんな、なんか間取りって好きなんですよ。
佐藤   なんか潜在意識が、、、
三浦   僕の娘も好きだよ。何かを刺激するんだね。表札も好きだけど。
大嶺   やっぱり好きなんだと思う。
佐藤   雑誌にも間取り図満載って書いてありますよね。
三浦   ただの情報だけじゃなくて、それで生活を想像したりするからね。
僕はこじつけ分析屋だからさ、思うのは、ここにあるのはいわゆる夢のある間取りじゃないじゃない? 三井ホーム的に。むしろそういう夢のなさがいいのかなと。相当こじつけだけど。
つまり、良い家族が良い間取りの家に住んでるってんじゃなくて、適当に壊れた家族が、適当に壊れた間取りの家に住んでいる、みんなそれぞれすこしずつ変なんだから、変な間取りでいいじゃんとかさ。そういう潜在意識はないのかなと。
佐藤   都筑響一さんとお話ししたときに、都筑さんが言ってたんですが、『TOKYO STYLE』を出したとき、結構読者はがきが帰ってきたそうで、雑誌やドラマだと東京の一人暮らしの家はこんなにおしゃれ、みたいなイメージだったけど、実はこんなに汚いよってことがわかってほっとしました、みんな汚くて安心しましたっていうはがきが多かったって。勇気が出ましたとか、励みになりましたとか。私の本の場合は「勇気が出ました」ってことはないんですけど(笑い)、ちょっと似たところがあるよねと都筑さんは言われてました。
三浦   『間取りの手帖』の読者はがきをまとめても本になるという気がしますけど。
大嶺   楽しかったあ!って感じですよ。
佐藤   自分で間取り図を書いてきてくれる人もいますよ。
大嶺   テレビなんかでも、貧乏暮らしの人の家に行って、その貧乏っぷりを見るっていう番組が多いですけど、あれも結局部屋の作りをみんなよろこんでいる。
三浦   おたくの人の部屋に行って、足の踏み場もないような部屋を見るとかね。
佐藤   間取りって、箱庭みたいで面白いんじゃないですか。
三浦   結構癒されるとか。間取りにはまっているときは、何も考えなくていい、みたいな。
佐藤   仕事に疲れたときに、机の上に置いておくといいとか。
三浦   なんか、ぺらぺらめくり的で(笑い)。
佐藤   そうそう。
大嶺   実際佐藤さんは、間取り図を最初単語帳に貼っていたんです。間取り図が好きな人にとっては、その方がいい。で、「間取り通信」ていうフリーペーパーを出していたんですね。編集、デザインも自分でしているので、彼女の収集家としてのテイスト、いわゆる味というのはそのペーパーのほうがいいんです。
三浦   第二弾はないんですか?
大嶺   それは著者次第。
三浦   まだ間取り研究は続けているんでしょう?
佐藤   そうですね。自分でも引っ越しを考えているんで、前よりも見ている時間が長くなった。前は変な間取りだけ見ていたのが、今はまともな間取りでも、あ、これは住みやすいんじゃないかとか。
大嶺   それは普通の人の見方よ。(笑い)
三浦   この本の著者が普通の間取りの家に引っ越すのはまずいんじゃない?
佐藤   それは、ほんとに許されないんじゃないかって。
三浦   ところで大嶺さんは、高島平出身じゃない?
大嶺   よく覚えてらっしゃいますね。
三浦   高島平だからこの本を企画したわけじゃないよね。
大嶺   それはこじつけ的にはそうですね。
三浦   潜在意識の誘惑! 同じ間取りの大規模マンションに住んでいた。
大嶺   そういうところから間取りを見るのが好きになり、こういう本に集結する。
三浦   あ、大嶺さんも好きなの?
大嶺   好きですよ。ものすごく好き。
三浦   今どんなところに住んでるの? あ、青葉台の長屋だっけ、痴漢の出た。
大嶺   そうです! よく覚えてますね(笑い)。そう、それで、そんな引っ越し遍歴を経て、今はなんと実家の近くの高島平に舞い戻ってしまって。
三浦   団地なの?
大嶺   いえ、団地だけはもう頑なに避けて。実は最近子供産んだもので、親の近くに住もうと思って。こういう本を作って、自分に決着を付けて、それでまた高島平に戻ったと(笑い)。


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