NHKの人気番組「プロジェクトX」を見ていると、現在と比べると高度経済成長期の人間がいかに未来に向かって生きていたかが切実に感じられ、さぞかし当時の人たちは生き甲斐を持っていたか、幸せだったかとうらやましくなることがあるだろう。
特に池田勇人首相が「所得倍増計画」を発表した1960年から、その計画が予定より早く達成され、アメリカに次いでGNP世界2位を実現した68年までの時代は、まさに明るく、力強く輝いて見える。
だが、世論調査を見る限り、当時の人々が生活に満足していたとは思えない。内閣府の「国民生活に関する世論調査」によれば、現在に生活に対して満足だという人は、1958年から73年までほぼ一貫して60%前後である。対して不満だという人は59年の31%から漸増し、71年には40.3%にまで上昇している。これを見る限り、高度経済成長期、所得倍増期は生活への不満が拡大していた時代だと言える。
生活への不満は第一次オイルショック後の75年に47.3%とピークとなるが、その後の低成長期には一貫して減少し、85年には28.6%になる。しかしバブル期になると不満がまた増加し、90年には35.9%。バブル崩壊後は再び不満が減少する。が、95年以降は不況の長期化のために不満が増え、2002年は36.7%となっている。
こうしたことから考えて、生活への不満は経済成長によっては解消されず、むしろ経済変動の著しい時期に増大すると言えそうである。
それはともかく、高度成長期が不満の拡大期であり、低成長期が不満の減少期であるという事実は、しばしば見逃されやすい事実であろう。
たしかに所得倍増の時代には、今の時代にはない充実感はあっただろう。が、今の時代にはない不幸もあった。交通事故は激増し、公害は拡大していた。水俣病、イタイイタイ病、新潟では阿賀野川の水銀中毒など、今からは想像もできない災禍もあった。成長の時代ではあったが、決して美しい時代ではなかった。光と影がはっきりとした時代であったとも言える。
にもかかわらず、ここ数年の不景気のために、高度経済成長期が必要以上に美化されてしまうのだ。またそこには、当時青少年だった、そして今はリストラの嵐の中にいる団塊世代のノスタルジーが大きく影響しているに違いない。
1963年から65年、東京オリンピックの前後に団塊世代は中学を卒業し始める。高校進学者数は、62年まではほぼ毎年100万人ほどであったのが、63年から65年には167万人ほどに激増した。
高校生文化、ハイティーン文化が一気に花開いた。「平凡パンチ」が創刊(64年)、アイビーファッション、ビートルズ、フォークソング、グループサウンズが流行。若者文化が最高潮に達していた。
では当時の若者の意識はどのようなものだったのだろう。1970年に内閣府青少年対策本部が20歳の青年を対象に行った調査を、1930年(昭和5年)、40年(昭和15年)の同様の調査と比べてみよう。
すると、まず「生活目標」としては「世の中の正しくないことを押しのけてどこまでも清く正しく暮らす」は、30年は32.6%、40年は40.9%であったが、70年には13.5%に激減している。
同様に「自分一身のことを考えずに、国家社会(公)のためにすべてをささげて暮らす」は24.2%、30.4%から4.2%に激減。他方、「金や名誉のことを考えずに、自分の趣味にあった暮らし方をする」は12.2%、5.4%だったのが、52.8%と激増している。
もうこれは現在の若者とあまり変わらない。所得倍増という未曾有の好景気が「趣味にあった暮らし」を望む団塊世代の若者を大量に出現させたのだ。そしてその後、彼らは結婚し、子どもを産み、その希望を子どもにも託し、趣味にあった暮らしをますます実現しようとしたのである。
参考文献:依田新他編「現代青年の社会参加」金子書房、1972
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